1.本特集の趣旨
協会創立45周年を記念する協会誌2006年秋季号の第2特集として、「配管技術者のための和・洋参考書100冊」をお贈りする。
1990年のバブル崩壊を起点とする長かった景気後退期を経ている間に、日本の状況にいろんな変化があった。就職難、リストラ蔓延、フリーター急増、デフレ、購買意欲低下、活字離れ、学力低下、技術力低下、計算/解析の自動化、そして2007年問題、インド・中国の台頭、一一一一一一一。
世界における競争力を低下せしめた今日の日本の技術力を活性化させ、技術立国日本を維持してゆくためには、技術という大樹の根元を強く、太くしておくことが最も重要である。それには若い技術者一人一人が自分の仕事に興味を持ち、勉強し、自分のポテンシャルを高めてゆくことが必要である。そして、「基盤は広く、専門は深く」が、世界に通用し、世界に出てゆける、グローバルエンジニアへの道だ。
この特集は、若い配管技術者が紐解き、読み、勉学し、参考にすれば、自己のポテンシャルアップと、実務の遂行に、効率的に役立つと思われる本、和・洋合わせて、100冊をピックアップした。今回、取り上げたジャンルの参考書は、過去20年ぐらいに発行されたものを数え上げることができるとすれば、恐らく日本で500冊、米国・英国を中心とする欧米で1000冊、計1500冊ぐらいはあろうか。そのうち、我々が今回中身をあたることができたものは、250~300冊ぐらいであろうか。眼の届いていない本の方がはるかに多い。従って、ここにリストアップされた本は、配管技術者にとって、大いに役に立つ本であるが、「ベスト100」というわけではない。タイトルを「和・洋参考書100選」ではなく、「和・洋参考書100冊」とした由縁である。
配管設計/技術は、流体工学、熱力学、材料/構造力学、化学工学、金属冶金学、物理学等の知識とその応用のみならず、電気、計装、土木、建築、に対する知見も有している必要がある。即ち、配管は異なる専門領域の知識も必要とする、学際的(lnterdisciplinary)色彩が強い。そのような観点から、各種の工学専門書から一般教養書の類まで、幅広くこのリストに含めた。
また一口に配管といっても、配管の分野には電力、化学、建築(空調衛生、給・排水、消火)、船舶、食品/薬品、パイプライン、などあり、それぞれ独自の規定(米国のASME PipingCodeは、電力用配管、燃料ガス用配管、プロセス用配管など、分野により8種類のCodeに分けられている)や“文化”をもっている。取り上げた本がこれらすべての分野に均等に比重を掛けられず、むら(斑)があることも否定できない。
また、和・洋参考書とも、既に絶版となり、新刊書店では手に入らないが、古典(Classic)としての価値があり、考え方、方法、データなど、参考になる本は含めた。これらの本は図書館でアクセス可能である。
技術書ではない一般書或いは科学図書の、読書案内や、○○100選といったガイドのようなものは世に出ているが、専門技術書に関する、その類のものについては、洋書はもちろんのこと、日本の本も、出版された書名をジャンル別に羅列した図書目録は別として、見たことがない。そこで曲がりなりにも、ここに和・用の専門技術書・参考書100冊をピックアップして、会員諸兄のご参考に供するものである。
2.欧米の参考書(第1表参照)
ここに掲げる欧米参考書は、主として米国の参考書であるが、口本の技術者、特に配管技術者にとって実務に大いに役立つのではないかと思われる本を、雑誌「配管技術」に2003年から2006年にかけて不定期に連載し、好評を得たものに、更に大幅に追補したものである。すでに掲載したものも時を経て、その後、版の新まった本もあり、それら新しい情報も加え、かつジャンル別に分類して、紹介するものである。
英語というと敬遠される方もおられるかと思うが、工学関係の参考書に使われている英語は構文が比較的単純、平明である。また、専門用語は英語をそのままカタカナ化した用語が多数あり、あまり辞書を引かなくてもすむ。“式”はもちろん万国共通だし、これらのものが道案内役をしてくれて、小説、随筆のように読むに従い、だんだん筋が分からなくなるというようなことは起きにくいし、途中の章、途中の節から読みはじめても、予備知識があるから、理解できる。英文の専門書を通じて、英語に慣れ親しんでゆくのも一方法であろう。
適切な本を選べば、日本と多少文化の違う米国の専門分野を学びながら、英語の読解力も身に付くという一石二鳥を果たすことができる。
3.1米国の参考書の特徴
米国の参考書もまた、技術者と学生(大学の教科書)双方を対象としている本が多いのは、日本と同じであるが、日本の参考書と比較して次のような特徴がある。
(1)長い年月、良くメンテナンスされ、使い込まれてきた本が多い。
米国の参考書で驚かされるのは、その息の長さである。初版から30年、40年経っている本も多く、しかもその間、豆に改訂が行われ、第8版、第9版、それ以上という本も少なくない。これらの本は淘汰の中で生き残り、版を重ねるごとに、最新の情報を取り入れ、読者の意見も採り入れ、より見やすく、より便利にと、改良を重ねているから使い勝手が良い。日本の本では、このように息の長い本は希であるし、息の長い本も改訂を行わず、増刷を繰り返すだけという本が多い。
(2)例題、演習問題が多く、即、実戦に役立つ。
米国の参考書は日本の参考書に較べ、明らかに例題、演習問題が多い(最近、日本の参考書も例題を多く載せる傾向にある)。式の説明等があっても、いざ自分で実地の問題を解こうとすると、とまどうところが出てくるものであるが、例題があれば、具体的な式の使い方がわかり、助かることが多い。参考書は実戦に役立たねば意味がないという考えがあるのであろう。
米国の参考書(教科書に採用されているものが多いと思われる)に演習問題が多いのは、米国の大学では莫大な数の宿題が踝せられるという背景にあると思われる。練習問題を多くこなすことは、実践重視の現れであろうが、例題が多いということは、我々にとっても好ましいことである。
(3)米国の本は一般に厚い。
紙1枚の厚さが米国の方が約2割厚いこと(200頁の厚さが日本では10mmに対し、米国では12mm)もあるが、総じて頁数も多い。ハンドブックのように引いて使う本は、頁数が多い方が知識・情報の量が多いので、利用価値が上がる。一方、本全部でないにしても、ある程度、読み通して全体を吸収したいという向きには、程々の厚さ(300頁程度)の本の方が適当であろう。
本のサイズは日本は210mmX148mm(A5サイズ)が多いが、米国は235mmX156mmが多く、米国の本は日本の本よりやや縦長である。
また、本の体裁としては、日本は簡素な装丁のハードカバーに色刷りのブックカバーを被せているが、米国では、ハードカバーそのものが、カラー印刷されている。
(4)日本の参考書には見られない、新しい知見が掲載されている。
日本と米国の技術は似ていても文化の違いのようなものがある。工学の世界で米国が1歩先んじているところもある(もちろんその逆もあるが)。日本で現在通用或いは紹介されていない考え方、解法、手法が米国参考書に掲載されているものが結構ある。
流体工学(水力学)の例を挙げるなら、損失水頭の計算における、「Crane社の新しいK値」(参考書3.2)、「2K法」(参考書3.3、3.5)、「Haalandの式」(参考書3.1)、「Chu.rch・・Usagiの式」(参考書3.5)などは日本の参考書に紹介されていない(多分)。
(5)最近は、ISO単位を併記している米国参考書も増えており、これも我々に好都合である。
3.2 欧米の参考書の情報をどうやって調べるか
(1)書店で
米国参考書を手に入れる方法として、丸善丸の内本店、八重洲ブックセンター本店などの洋書売場には、充分でないにしても若干の機械工学関係の参考書を置いているので、そこで手にいれる方法がある。06年1月、丸善丸の内本店の四階洋書売場奥のMechanicaI Engineering とChemica1 Engineering の書棚には、流体工学、材料力学、腐蝕、バルブ、ポンプ、配管・圧力容器、等の分野で食指の動く書籍が少なくも10冊はあった(丸善は、我々が欲しい本を、選ぶ目を持っていると感じた)。しかし、日本に限らず、米国、例えばニューヨークのMcGraw H・の直売店でさえも、我々の関心ある工学書で置いてあるのは、Computer関係の本以外、出版されている本の内、少数の限られたものだけである。
(2)インターネットで
それに引き替え、INTERNET を使えば、現在米国で出版されている殆どすべての本を“見る”ことができる。例えば、www.rbookshop.com のサイトを開くと、左側にBook Category という欄があり、その中のEngineering Books をクリックすると、Engineeringの専門分野がアルファベット順に羅列されているので、興味のある分野をクリックすれば、各分野ごとに300件とか600件とかの本を順繰りに、本のタイトル、著者、値段、表紙などを見ることができる。更に詳しく知りたい場合は、その表紙絵をクリックすると、その本のセールスポイントや読者の書評が出てくる。更に、売れ筋の本の場合は表紙絵に“Search Inside” というマークがついていて(右写真参照)、その表紙絵をクリックすると、目次、本文の最初の数頁、索引、それに裏表紙の本の宣伝文を読むことができる。このマークがついた本は、かなり的確に本の内容が掴めるので、的はずれの物を賈ってしまうことは少なくなる。逆に、具体的中身を全く見ることのできない本は、本が届いたら、思っていたものと少し違うということもありうる。
3.3 インターネットによる購入方法
(1)購入の方法
小生は今まで殆どの本を、本のインターネット・ショップでは最も大手と思われる米国のAmazon.comを通して買っている。しかし、Amazon.comで検索して出て来なくて、他のサイトで出てくる本もあり、また、Amazon.comの値段が最も安いというわけでもない(米国の本には定価がついてないのが一般的で、値段は店やサイトによって差がある。米国在住者が対象の、より安い価格もある。)。Amazon.comを通じ、30回以上購入したが、今までのところトラブルはない。
Amazon.comの場合、一度、名前、住所、電話、それにクレジットカード番号などを登録し、購入すると、次回からは、“Buy now with 1 click”というアイコンを使って1クリックで欲しい本を注文できるのは便利だ。また、複数の本を同時(90分以内)に注文すると、送料が割引になるサービスもある。(送料は本により異なるが、1冊あたり10~20US$くらいで、同時注文の場合、2冊目以降、ほぼ半額の送料になうているようである、)
注意事項として、最新の版ではなく、旧い版が検索で出てくることがあるので、発行年に注意し。幾つかのサイトも参照して、それが最新の版であるかどうかを確認した方が良い。また、他の本との抱き合わせセールスもやっているので、注文のクリックをするときは注意が必要。注文のキャンセルはすぐなら可能だ。
(2)価格
本の値段は最も関心のあるもののひとっだが、リスト価格という定価のごとき値段が設定されているが、必ずしもこの値段が、販売価格になっておらず、インターネット・ショップにより差がある。発行後10年以上経った本は、リスト価格より10%程度安くなるケースもある。従って、日本の本屋で買う場合、外国のインターネット・ショップで買う場合、日本のインターネット・ショップ(例えば、日本のAmazon.co.jpも広く米国の参考書を扱っている)で買う場合、などいろんなケースにつき、本体の値段、送料、税金、込みでどこが一番安いかあたってみるのが良い。「いつでもここが最も安い」という定石はないようである。
本稿に記載の値段は、やや旧いものもあり、また、インターネットショップにより異なるので、参考値としてください。
(3)入手所用日数
インターネットで購入の場合、標準の“Standard International Shipping” で、早いものは注文から1週間ぐらいで着くが、通常は3週間程度掛かる。希ではあるが、在庫がない場合は2ヶ月ぐらい掛かることもある(Amazon.comでは、このような場合、そのような条件でも注文を続けるか否か問い合わせてくる)。
3.日本の参考書(第2表参照)
(1)日本の参考書の特徴
ここに掲げる日本の参考書は、編集委員会メンバーが過去親しんだ参考書の外に、今回、新刊書の大型書店、古本屋、図書館、などを調べ、斜め読みして、これはと思う本を選んだ。何分、視野・行動半径の狹さ、理解不足の点から、多くの良書を見逃したことと思う。しかし、一方、良書の一角をここに捉えられたのではないかとも思う。
この特集を編んでいて、感じたことは、現在の日本の工学専門書出版にぱ気骨”が欠けているのではないか、ということである。私が見た良書は20年以上前に出版されたものが多い。そしてそれらの多くは絶版になって、今では手に入らないものが多い。日本の参考書に、時を多く経ずして絶版になるものが多いのは、適時に改訂されず、初版のまま、その本の生涯を終えるというところにある。つまり出版社或いは著者により、本のメンテナンスがなおざりにされている、1回出したらそれっきりというのが多いのである。
米国の参考書には、30年、40年という長い年月にわたり、適宜、改訂で版を改め、その度に、最新の情報を取り入れ、より見やすく、より便利にと、改良を重ねているから、常に時代にマッチし、かつ、使い勝手が良い。
日本の本は何故改訂されないのか?1冊の本をブラッシュアップしつつ、地道に育ててゆくよりも、手軽に新刊を出した方が、商売になるというためではなかろうか?だから、本の種類は多いけれども、どれも似たり寄ったりで、重厚感のある本が少ない。
本特集は、今では手に入らなくなった良書の名を、少なくとも、ここに留めおこうという目的もある。そして、それらの本を図書館等において見ることができることを以て、良しとするべきかもしれない。
(2)参考書と便覧(ハンドブック)
“なになに学”という参考書は、概ね大学の先生が学生を対象に書いたものである。従って、理屈を知るには、好都合だが、実務上の課題を処理するために使う場合には、掲載されているデータの種類が不十分で、役不足であることも多い。その点、便覧は、通常、学生よりも、実社会で役立つように編纂されており、一般にデータも多く、オールラウンドで、実務に即、役にたつことが多い。米国は日本よりハンドブックが多い。
4.工学専門書を入手またはアクセスできる場所
国内の工学専門書が豊富に置いてある図書館は、東京近郊では国立国会図書館と神奈川県立川崎図書館である。国会図書館は、一部を除き殆どの本が閉架式であるが、川崎図書館は、開架式と閉架式を混用している(よく利用される本が開架式)。
欧米の工学専門書(原書)は国会図書館に若干あるが、川崎図書館は皆無といってよい。
新刊書店で日本の工学専門書が多いのは、東京近郊では、ジュンク堂池袋本店、八重洲ブックセンター、丸善本店、次いで、ブックファースト渋谷店、三省堂神保町店、書泉グランデ(神保町)、紀伊国屋新宿店、などであろう。
欧米の新刊専門書を置いているのは、丸善丸の内本店が多く。次いで八重洲ブックセンターである。
古書店では、和書(多数置いている)、欧米書とも、明倫館にある。
(1)図書館(東京近郊)
・国立国会図書館(東京メトロ永田町駅より徒歩8分)
・県立川崎図書館(JR川崎駅より徒歩12分)
(2)主な新刊書店(東京近郊)
・丸善本店 東京駅丸の内北口 (JR東京駅より徒歩2分)
・八重洲ブックセンター 東京駅八重洲口 やや有楽町寄り(JR東京駅より徒歩3分)
・ジュンク堂池袋本店 池袋駅東口 やや新宿寄り(JR池袋駅より徒歩5分)
・ブックファースト渋谷店 文化村通り東急百貨店本店前(JR渋谷駅より徒歩10分)
(3)古書店(東京近郊)
・明倫館 (JRお豕の水駅より徒歩10分、地下鉄 神保町駅7番出口より徒歩2分)